ランチに駆け抜けて行った、たしかなもの。

 ある日のランチ時間でのこと。

 斜め後ろの席の男女カップルが交わし合う、マスク越しの活発な会話が否応にも耳に入ってきてしまう。

 就職のこと、バイトのこと、ゼミのこと。

 その内容から、大学生であるという容易な推測が脳内で整理できた。そして、会話はこんな展開に入っていった。


「あたしのような真面目な人を探してね」

「あたしのような真面目な人じゃないと、結婚式には行かないからね」


 どうやら、そんな進行形の関係上にいる二人らしい。

 彼女の早口調子の声には、潜在される照れを隠すような想いが含まれていながらも、しっかりとした本気の意思が窺い知れる。その後、ボソボソと返答している彼の声は、私の耳に届いてはくれない。もはや関心は、彼女のストレートな意思だけになってしまっていた。

 放たれた発言を耳にして、私はすっかりお腹がいっぱいになってしまった。程なくしてテーブルを立ち、振り向き様に斜め後ろにいた彼女と一瞬目が合った。

 その目を見て、ふと、とある親しい知人女性の顔が連想の流れに現れてくれた。

「あの人も、きっと若い頃、彼女のような目をしていただろうな」

 ランチ時間に出会した、ほんの数分間の出来事。その数分間は、私に与えられた今日一日の中に、特別な射光を注いでくれた。

 ショートヘアーがよく似合う、凛々しい瞳のお嬢さん。あなたの未来が、確かな歓びに出会える歩みでありますように。

0コメント

  • 1000 / 1000